【キッチン 】吉本ばなな
言わずと知れた吉本ばななさんのデビュー作。キッチンの空間が好きな人は多いのではないか。私は誰もいない、朝のキッチンでコーヒーを飲んでる時間が好きだ。主人公のみかげは肉親を失い、そこに寄り添ってくれたのが年下の青年の雄一。青年の母、えりこさんが素敵で、「だって私、体をはって明るく生きてきたんだもん。私は美しいわ。私、輝いている。」と言い切れる内面の美しさ。言葉の1つ1つが生きていて、ぐっと惹きつけられる。
【スープ・オペラ 】阿川佐和子
独身35歳のルイ。女手ひとつで育ててくれた叔母さんが、還暦を前に突然恋に落ちて出て行く。1人残されたルイの家に、突然独身男2人が転がり込んでくる。初老でモテるトニーさんと、年下で気弱な康介。唯一の共通点はスープが好きなこと。全く接点のないもの同士がスープで繋がる。ちょっぴり辛口だけど、こんな幸せなことってあるのかと思わせるストーリーの素晴らしさ。楽しそうな食事の風景が彼らを繋げます。
センセイとツキコさん。偶然駅前の居酒屋で高校の恩師と十数年ぶりに再会したツキコさんの切なくもあったかい物語。それ以来、センセイと肴をつつき、酒を嗜み、キノコ狩りや花見に出かける2人。30も歳の離れた2人が過ごす時間は、穏やかで、心の充実とはこういうことかと思わずにはいられない。この小説を読むと強烈に日本酒が飲みたくなり、日本酒の美味しさを知るきっかけとなった本。
【それからはスープのことばかり考えて暮らした 】 吉田篤弘
路面電車が走る月舟町のお隣の町に越してきた青年。古い映画ばかりを流す映画館「月舟シネマ」とポップコーン売り、アパートの屋根裏に住むマダム、商店街のはずれにあるサンドイッチ店「トロワ」の店主と息子。登場人物が魅力的で、全体的におとぎ話の空気が漂い、ゆったりと丁寧に紡がれていく物語。サンドイッチの描写がたまらなく美味しそうで本にかぶりつきたくなる。